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広島地方裁判所 昭和37年(ワ)351号 判決 1967年2月20日

原告 国鉄労働組合

被告 金子良造 外四八名

理由

(原告の請求の趣旨および請求原因)

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し、それぞれ別紙第二目録の『請求金額』欄記載の各金員およびこれに対する昭和三七年七月八日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一 原告は日本国有鉄道の職員によつて結成された法人たる単一労働組合であり、被告らはいずれも国鉄広島鉄道管理局管内に勤務する国鉄職員であつて、以前原告組合の組合員として広島地方本部厚狭支部に所属していたものである。

二 被告らは、国鉄労働組合規約により組合員であつた期間、所定の組合費納入の義務がある。

しかるに、被告らは、別紙第二目録の「脱退年月日」欄記載の日にそれぞれ原告組合に対し組合脱退の届出をし、その届出の日の翌月に原告組合から脱退の承認を受けて脱退したが、同目録の(イ)「組合費」欄記載のとおり、脱退までに一般組合費を納入していない。

三 つぎに、原告組合では、次のとおり、被告らの脱退以前に臨時組合費の徴収を決議し指令(指示)した。

(ロ) 「年末闘争資金」は、昭和三三年一〇月一日から三日まで開催の第五〇回中央委員会および同年一一月七日開催の第二九回広島地方本部地方委員会で各決議され、同月一四日指令第二〇号、同月二四日指令第二三号、同年一二月九日広地本指令第二〇号で指令されたもので、各金二〇〇円。

(ハ) 「管理所闘争資金」は、昭和三三年一一月二一日開催の第二三回広島地方本部厚狭支部委員会で決議されたもので、各金一〇〇円。

(ニ) 「志免カンパ」は、昭和三四年一月二一日、二二日開催の第五一回中央委員会で決議され、同年二月一七日指令第三四号で指令されたもので、同年六月一八日当時の報酬の号俸別により、一号から一三号の者は各金五〇円、一四号から二七号の者は各金七五円、二八号以上の者は各金一二〇円。

(ホ) 「炭労資金」のうち第一次分は、昭和三四年一〇月二五日、二六日開催の第五三回中央委員会で決議し、同年一二月五日指令第一九号で指令したもので各金一〇〇円。同第二次分は、昭和三五年二月一一日から一四日開催の第五四回中央委員会で決議され、同年五月七日指令第三八号で指令されたもので各金一〇〇円。同第三次分と同第四次分は、いずれも昭和三五年七月二五日開催の第二〇回全国大会で決議され、同年九月五日指令第二号で指令されたもので、三次分は各金一〇〇円、四次分は各金五〇円。

(ヘ) 「安保資金」は、昭和三五年七月二五日開催の第二〇回全国大会で決議され、同年九月五日指令第二号で指令されたもので、各金五〇円。

(ト) 「政治昂揚資金」は、昭和三五年一〇月一七日、一八日開催の第五五回中央委員会で決議され、同月二〇日指令第八号、同月二七日広地本指令第五号で指令されたもので各金二〇円。

(チ) 「無給職員」のうち昭和三三年分は、昭和三四年一月二九日開催の第三〇回広島地方本部地方委員会で決議され昭和三三年一二月六日広地本指令第一八号で指令されたもので、各金一〇円。同昭和三四年分は、昭和三四年一一月一二日開催の第三二回広島地方本部地方委員会で決議され、同年一二月八日指示第五号で指令されたもので各金一〇円。同昭和三五年分は、昭和三六年二月一〇日開催の第三四回広島地方本部地方委員会で決議され、昭和三五年一〇月二七日指令第五号で指令されたもので、各金一〇円。

(リ) 「春闘資金」は、昭和三六年一月二三日開催の第五六回中央委員会および同年二月一〇日開催の第三四回広島地方本部地方委員会で各決議され、同年二月一日指令第一四号、同日広地本指令第一四で指令されたもので、各金三〇〇円。

しかるに、被告らはそれぞれ別紙第二目録の(ロ)「年末闘争資金」以下(リ)「春闘資金」までの各欄記載のとおりそれらの臨時組合費の納入を怠つている。

四 よつて、原告は被告らに対し別紙第二目録の「請求金額」欄記載の各金員およびこれに対する昭和三七年七月八日(被告らのうち最も遅く本件訴状の送達を受けた日の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の答弁および主張)

被告ら訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁並びに主張として、次のとおり述べた。

請求原因第一項記載の事実は認める。

同第二項記載の事実のうち、組合員が組合規約により組合員である期間組合費納入の義務があること、被告らが別紙第二目録の「脱退年月日」欄記載の日にいずれも原告組合に対し組合脱退の届出をしたこと、および原告請求の一般組合費(別紙第二目録の(イ)「組合費」欄記載のもの)のうち被告らが脱退の届出をした日以前の分については、被告らが原告に対しその納入義務を負つていることは認める。ただし、被告らは脱退の届出によつて即日原告組合から脱退したので(組合員の脱退につき組合の承認を要するとする組合規約は、組合の加入およびそれからの脱退の自由を保障した公共企業体等労働関係法の規定に反し無効である)、その脱退した月の組合費については、脱退した日までの分を日割計算で納入すべき義務のあることは認めるが、その余の請求は失当である。

同第三項記載の事実のうち、原告主張の各臨時組合費の徴収の決議および指令(指示)の事実は不知、仮にそのとおりの決議および指令があつたとしても、次に述べるとおり、それらを納入すべき義務はない。

すなわち、(ロ)「年末闘争資金」、(ハ)「管理所闘争資金」それに(ニ)「志免カンパ」は、いずれも勤務時間内にくい込む職場集会等前記公労法第一七条で禁止されている争議行為を行うための資金であるから、かかる違法な行為を目的とするものに対して資金を拠出する義務はない。

そして、(ホ)「炭労資金」、(ヘ)「安保資金」、(ト)「政治昂揚資金」、(チ)「無給職員」、(リ)「春闘資金」は、いずれも組合員の自由意思に委ねられたもので、いわゆる自由カンパないしは任意カンパである。

(証拠関係省略)

理由

(当事者間の関係)

原告は日本国有鉄道の職員によつて結成された法人たる単一労働組合であり、被告らはいずれも国鉄広島鉄道管理局管内に勤務する国鉄職員であつて、以前原告組合の組合員として広島地方本部厚狭支部に所属していたものであることは当事者間に争いがない。

(一般組合費について)

まず、被告らの組合脱退の時期について判断するに、被告らが別紙第二目録の「脱退年月日」欄記載の日にそれぞれ原告組合に対し組合脱退の届出をしたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一一号証によると、原告組合の昭和三六年七月一八日以前の規約第二二条には「組合を脱退する者は、その理由を明らかにして組合に申出で、その承認をうける。」との規定があるが、その規定のうち脱退には組合の承認を要する旨の部分は組合からの脱退の自由ひいては他組合への加入の自由を不当に制限するものであつて無効であると解するのが相当であるから、本件被告らはいずれも組合に対する前記各脱退の届出によつて即日組合員の地位を喪失したものと解するのが相当である。

ところで、原告請求の一般組合費(別紙第二目録の(イ)「組合費」欄記載のもの)のうち、被告らの前記各脱退の日以前の分については、被告らが原告に対しその納入義務のあることを自認しているが、脱退した月の分については、脱退した日までの分を日割計算とすべきものか否かにつき争いあるところ、いずれも成立に争いのない甲第一〇、一一号証によれば、昭和三六年七月一八日以前の組合規約第三九条(現行規約第四二条)第二項には「組合費の月額は大会できめる。」とあり、一般組合費は月単位で定められていると考えられ、格別の慣行のあることも認め難いから、たとえ月の途中で脱退した場合でもその月の組合費は、月額全部を納入すべきものと解するのが相当である。

そうすると、一般組合費については、被告らはそれぞれ原告に対し原告請求どおりその全額を支払わなければならない。(ただし、番号32林元政、同41崎前隆、同52福島邦彦の三名については、原告において一般組合費の請求をしていないので、その支払義務のないことは自明である。)

(臨時組合費について)

いずれも成立に争いのない甲第一〇、一一号証、証人石川俊彦の証言によつて成立の認められる甲第一号証、それに証人枝村要作の証言によると、原告組合の規約には組合の経費は組合費、寄附金その他であてるが、中央委員会で必要と認めたときは臨時に徴収することができる旨の規定があること、原告組合広島地方本部の規約には地方本部の経費は本部からの交付金、寄附金その他であてるが、地方委員会で必要と認めたときは、本部の承認を得て、臨時に徴収することができる旨の規定があること、右地方本部の厚狭支部規約には支部の経費は地方本部からの交付金その他であてるが、支部委員会で必要と認めたときは、地方本部の承認を得て、臨時に徴収することができる旨の規定があること、以上の事実が認められる。

そして、証人藤浦俊雄の証言によつていずれも成立の認められる甲第二号証の一、二、三、同第三号証の一、二、同第四、五号証、同第六号証の一、二、証人徳重静夫の証言によつていずれも成立の認められる甲第一四号証の一、二、それに証人中川新一、同石川俊彦、同藤浦俊雄、同枝村要作、同徳重静夫の各証言によると、原告組合では前記各規定に基づいて請求原因第三項記載のとおり各種の臨時徴収を決議し、指令したこと(ただし(チ)「無給職員」に関する部分を除く)、また(ハ)「管理所闘争資金」については更らに地方本部の承認を得たことが認められる。

しかし、(チ)「無給職員」カンパについては、証人藤浦俊雄の証言によつていずれも成立の認められる甲第七号証の一、二、証人徳重静夫の証言によつて成立の認められる甲第一五号証、それに証人藤浦俊雄の証言によると、原告が主張するそれぞれの日に広島地方本部では昭和三三年、三四年、三五年の各年末に無給休職者に対する年末カンパとして組合員一人当り毎年金一〇円ずつ徴収することを決定し、指令指示したことは認められるが、これは、右指令、指示(甲第七号証の一、二、同第一五号証)の内容から明らかなとおり、病気のため無給休職者となつている組合員あるいは未組織労働者で越年手当の要求さえ不可能な者に対する年末助け合いとして、あくまで各組合員の理解と協力によつて任意に拠出を求めようとしたもの、即ち、いわゆる任意カンパで、組合規約に基づく臨時徴収即ち組合員に納入を義務づけるものではなかつたと認められる。また、この無給職員助け合いカンパのごときものは、その性質上、組合が組合員を説得して任意に拠出するようつとめ、組合員がこれに応ずるならいざしらず、被告らのようにこれを肯んじないものに対しては法律上支払を強制すべきものでもない。よつて被告らに(チ)「無給職員」カンパ支払の義務はない。

さて、被告らは(ロ)「年末闘争資金」、(ハ)「管理所闘争資金」、(ニ)「志免カンパ」について、これらは勤務時間内にくい込む職場集会等違法な闘争を目的とするものであるから納入の義務がない旨主張するところ、前掲甲第二号証の一、二、三、同第三号証の一、二、それに証人中川新一、同枝村要作の各証言によると、「年末闘争資金」は昭和三三年の年末手当等諸要求を貫徹するための闘争資金、「管理所闘争資金」は国鉄が経営合理化の一環として設置しようとした管理所構想に対し、合理化による人員整理等を生ぜしめるものとして反対するための闘争資金、「志免カンパ」は国鉄志免鉱業所の民間払い下げが同じく合理化による人員整理等の問題を生ぜしめるとしてこれに反対するための闘争資金であることが認められ、これらの闘争が原告国鉄労組の目的の範囲内であることはいうまでもなく、ただ前掲証拠の各指令および被告重兼孝二の本人尋問(第一、二回)の結果によると、それらの闘争の一方法として組合幹部が勤務時間内の職場集会を企図し、また現にかかる集会を一部の組合員が行つたなどの事実もうかがわれるところであるが、しかし、たとえ個々の闘争方法の一部に違法の点があつたとしても、それをもつて直ちに闘争全体が違法ということはできず、これを本件について全審理を通じて判断しても右各闘争そのものが全体的にみて違法ということはできないので被告らには前記(ロ)(ハ)(ニ)の各臨時徴収分を納付すべき義務があるといわねばならない。したがつて、この点に関する被告らの主張は採用できない。

つぎに、(ホ)「炭労資金」、(ヘ)「安保資金」、(ト)「政治昂揚資金」について考えてみると、前掲甲第四号証、甲第五号証、甲第一四号証の一、二、それに証人中川新一の証言によれば、「炭労資金」は三井三池を中心とする炭労の企業整備反対闘争の資金、「安保資金」は日米安全保障条約の改正反対闘争の資金、「政治昂揚資金」は組合員の政治意識を昂揚するために結成されている国鉄労組政治連盟の活動資金であることが認められるが、そのうち「炭労資金」は原告国鉄労組以外の組合の闘争資金である点で原告組合の目的(成立に争いのない甲第一〇号証によつて認められる同組合規約第三条には「組合は、国鉄労働組合員の生活と地位の向上をはかり日本国有鉄道の業務を改善し、民主的国家の興隆に寄与することを目的とする。」とある。)の範囲をこえ、また「安保資金」は労働者の経済的地位の向上を主たる目的としない、いわゆる政治闘争のための資金である点で、「政治昂揚資金」は被告重兼孝二の本人尋問(第一、二回)の結果によつて認められるように特定の政治意識を昂揚せしめようとする点で、いずれも労働組合一般の目的の範囲をこえると解するのが相当である。そうすると、「炭労資金」、「安保資金」、「政治昂揚資金」については、臨時徴収として決議した組合の決議は法律上組合員を拘束する効力を有しないものというべきであるから、納付を肯んじない被告らに納付を強制すべき方法はない。

最後に(リ)「春闘資金」についてみると、前掲甲第六号証の一、二によると、この資金三〇〇円には昭和三六年のいわゆる春闘として大幅賃上げ要求等の闘争関係資金二七〇円と「炭労資金」の最終分金三〇円とが含まれていることが認められるので、そのうち炭労資金分金三〇円については前記(ホ)「炭労資金」の項記載の理由と同一の理由により納入の義務なきものと認め、残余の春闘分金二七〇円については前記組合決議により納入義務あるものと認める。なお、この春闘資金の納入期限は前掲甲第六号証の一、二によつて昭和三六年二月末日であると認められる。

(結語)

そうすると、被告林元政(番号32)を除く被告らは原告に対し、別紙第二目録の(イ)「組合費」(一般組合費)、(ロ)「年末闘争資金」、(ハ)「管理所闘争資金」、(ニ)「志免カンパ」、および(リ)「春闘資金」中炭労資金の最終分金三〇円を除いた残金二七〇円、以上の各欄記載の各金員(その各人の合計金額は同目録の「認容金額」欄記載のとおり)およびこれに対する昭和三七年七月八日(本件被告らのうち最も遅く訴状の送達を受けた日の翌日でありこのことは記録上明らかである)から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本件請求はこの限度で理由があるから認容する。しかしその余の請求、すなわち(ホ)「炭労資金」、(ヘ)「安保資金」、(ト)「政治昂揚資金」、(チ)「無給職員」、それに(リ)「春闘資金」のうち炭労資金最終分三〇円については、理由なきものと認め棄却する。その結果被告林元政(番号32)に対する請求はすべて失当であつて全部棄却とする。

訴訟費用の負担については、原告と被告林元政との間では民事訴訟法第八九条により全部原告の負担とし、原告とその余の被告らとの間では同法第九二条、第九三条を適用してこれを七分し、その一を原告、その余を右被告らの各負担とする。

なお、仮執行の宣言の申立は諸種の状況から相当でないと認められるのでこれを却下する。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊佐義里 菅納一郎 角田進)

(別紙省略)

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